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更新日:2023年8月1日

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息子を守りたい一心で日本への避難を決めました

特集

ウクライナの夫婦が語る平和

2022年2月に始まったウクライナの戦争が長期化し、1年半がたとうとしています。メディアでの報道も当初と比べると減少し、遠い世界の出来事のように感じることもあるかもしれません。
平和が続いている日本にいる私たちだからこそ、ウクライナから避難された方々の言葉に耳を傾け、平和について考えてみませんか。
今号は、ウクライナから目黒区へ避難しているご夫婦に、ロシア語を学ぶ大学生が避難時の様子や平和についてお聞きしました。
お問い合わせ 広報課(電話:03-5722-9486、ファクス:03-5722-8674)

目次

 

ウクライナについて

人口は4千万人超、面積は日本の1.6倍もある国です。ロシアとの歴史的なつながりは深く、1991年に独立する前は、ソビエト連邦の共和国の1つでした。現在もロシア系の住民が2割ほど暮らし、ウクライナ語が国家語ですが、ロシア語を話す人も多くいます。1986年に事故を起こしたチョルノービリ原子力発電所もウクライナにあります。

日本への避難民数:2,468人
目黒区への避難民数:14人
7月19日現在

区によるウクライナ避難民への生活支援

2022年9月からふるさと納税による寄付募集を開始しました。目黒区国際交流協会を通じて、見舞金や生活支援物資の支給に活用しています。

注記個人からの物品寄付は受け付けていません

見舞金・生活支援金の支給 1人10万円の見舞金や生活支援金を支給
住宅支援、生活支援 都と連携して住宅支援を実施。Wi-Fiルーターや携帯型翻訳機などの必要な生活用品を提供
通訳支援 目黒区国際交流協会の通訳ボランティアの協力で、各種手続きや買い物などの日常生活での通訳や同行支援を実施
日本語、日本文化の学習 機会提供 目黒区国際交流協会が、日本語教室や生け花・茶道・弓道体験教室を実施

支援内容の詳細を見る

平和の壁画からつなげよう平和な未来への願い

平和の鐘や平和祈念の彫像を設置する区民センターに、壁画アーティストのミヤザキケンスケ氏と地域の子どもたちで描いた壁画です。新しい平和のシンボルとして、世界平和と明るい未来への願いが込められています。

ご紹介

ウクライナから目黒区へ避難した家族

ウクライナ東部のハルキウで、当時4歳の息子とともに生活していたロマンさんとアンナさん。ロシアの軍事侵攻による砲弾から逃れるためウクライナ西側に避難し、その後、家族の保証人になった友人のいづみさんを頼りに来日し、昨年5月から区内で暮らしています。

セドヴォロシィ・ロマンさん
オーケストラのバイオリニストとしてハルキウ国立オペラ劇場で働いていた。現在は区のイベントなどで演奏をしている。

 

ダニロワ・アンナさん
ハルキウ国立オペラ劇場でバレリーナをしていた。現在は区内のバレエスクールでバレエを教えている。

インタビュアー

髙橋英玲奈さん
アルメニア共和国出身の母と日本人の父を持ち、自身もロシア語が堪能。大学では、ロシア語のほかにロシア政治・外交などについて学んでいる。

取材協力者

チウィーコワいづみさん
18歳の時、バレエを学びにロシアへ留学。ウクライナでアンナさんとともにバレリーナとして活躍していた。夫がウクライナ人。ロマン氏家族の保証人となり、目黒区へ呼び寄せた。

 

この21世紀に戦争が起こるとは。そんな気持ちでした

髙橋)戦争以前、ウクライナでどのような生活を送られていましたか

ロマン

朝から晩まで演奏活動を行っていました。オーケストラの首席バイオリニストとして活躍することが目標でした。仕事、家族、家と全てがあり、とても幸せでした。

アンナ

劇場での仕事を中心に、ボディバレエ(注記)の指導をしていました。仕事、そして家族と過ごす時間がありました。
注記バレエをベースにした、老若男女全ての人向けのエクササイズ

髙橋)ご夫婦にとって戦争はどのように始まりましたか

ロマン

朝の4時半頃に突然爆撃が始まり、アンナは「何が起きているの」と叫んでいました。私は戦争が始まったとすぐ分かったのですが、アンナを落ち着かせるため「これは花火だよ」と言ったのを覚えています。

アンナ

最初に考えたのは「戦争が始まったのであれば、どうやって仕事に行けばいいのか」ということ。この21世紀にどうして戦争が始まったのか理解できない状況でした。

髙橋)戦争は、「まさか」だったのでしょうか。「ついに」だったのでしょうか

ロマン

上司は「まず大丈夫だと思うけれど、念のためガソリンは満タンにしておいた方がいい」と言っていましたが、2人とも劇場の公演や新作の準備など仕事に追われる毎日で、21世紀に、まさか戦争が起こるとは考えていませんでした。

︎ハルキウで暮らしていたいづみさんの家の様子。近くに落ちた砲弾による爆風で、窓ガラスが割れ、室内に散乱している

戦争になった時にどうすればいいか、教わってこなかった

髙橋)この戦争で一番ショックだったことはどんなことでしょうか

ロマン

当時ハルキウは1時間ごとに爆撃されていたので、ショックというより「どうやって生き残るか」ばかり考えていました。これまで「戦争になった時にどうすればいいか」「どこにどう避難すればいいか」なんて教わってきませんでした。

アンナ

今までの生活全てを1つのキャリーバッグに詰め込んで、西へ逃げました。それでも、家族全員が生き残り、健康であることが本当によかったと感じています。

髙橋)避難か、残るか、の葛藤はありましたか

アンナ

当時ウクライナ政府は「この戦争は1日で終わる」と言っていました。その後、「あと3日」「あと1週間で終わる」とどんどん延びていきました。すぐ終わると思っていたので、避難は考えませんでした。しかし、1週間で終わる様子はなく、ウクライナ西部を転々とする生活を送っており、息子の命を守りたい一心で昨年5月に日本への避難を決めました。

髙橋)どのような経緯で目黒区に避難されたのですか

アンナ

いづみの知人で、目黒区でバレエ学校を運営しているかたが、私をバレエ講師として受け入れてくれたのです。

いづみ

侵攻が始まった頃、私の家族もハルキウで暮らしていましたが、走行距離の短い電気自動車しかなく、脱出できずにいました。そんな時、ロマンとアンナが私たち家族のことを心配し、「私たちはハルキウを車で脱出する。大きな車だからいづみの家族も全員乗れるよ。一緒に行かないか」と声を掛けてくれたのです。結果的に、その時私たちはハルキウを離れませんでしたが、声を掛けてくれたことが本当にうれしくて、私もアンナたちに何かできないかと思って、日本への避難を勧めたんです。

アンナ

私は出国が難しく、当初はヨーロッパで慈善コンサートなどを行っていました。アンナたちと「必ず日本で会おう」と約束し、その後、日本に来て家族やいづみさんと再会することができました。

日本には、静けさと安全・安心・平和がある

髙橋)目黒区に来てから、うれしかったこと、楽しかったことはありますか

アンナ

うれしかったのは、静けさと安全・安心・平和があることです。

ロマン

来日後、息子の保育園の迎えに行った時のことですが、アンナに行き方を聞いたのに、道に迷ってしまいました。不安で涙が止まらなくなってバス停に座っていたら、多くの人が声を掛けて助けてくれたんです。日本のかたの優しさに触れて、本当に感謝しています。

髙橋)避難されてからの生活はいかがですか

アンナ

週6回、バレエ教室をやっています。ウクライナで行っていたボディバレエのスタジオも拡大していきたいと思っています。

ロマン

安心して生活することができ、幸せです。ただ、仕事が見つかりません。今後、音楽界に出ていくためのつながりが必要だと思っています。私は作曲も演奏も編曲もできます。将来は12歳までの子どもを集めて、アンサンブルコンサートを開きたいです。実現するには、日本語という大きな障壁を越えなければいけないと思っています。

髙橋)現在、不安に思うことはありますか

アンナ

ウクライナに残っている母が心配で、毎日ビデオ通話で連絡をとっています。息子もおばあちゃんをとても恋しく思っていて、会えなくて悲しんでいます。

ロマン

日本で心配なことは特にありません。いづみさんがいて、日本の皆さんが私たちを保護してくれました。目黒区も支援してくれています。これから日本で仕事をして、活躍していきたいです。そして、いつか母国に帰る機会があったらいいと思っています。

髙橋)避難前の日本の印象はどのようなものでしたか

アンナ

12年前にバレエの公演で来日したことがあります。その時は人が多く、素晴らしい国だと思いました。日本のことはいづみからも話を聞いていて、桜を見たいと思っていました。

ロマン

ウクライナにいた時から、日本のアニメがとても好きで、アニメを翻訳なしで見ていました。

髙橋)目黒区に望むことは何かありますか

ロマン

素晴らしい区です。都心で交通の便もいいですし、近所にあるお店のラーメンがおいしいのも幸せです。

今を精いっぱい生きて幸せを感じたい

髙橋)1年後、どのような生活をしたいと思っていますか

ロマン

1週間後何が起こるか分からない状況で、1年後の生活について正確に答えることはできません。でも今、今日がある。今を精いっぱい生きて、幸せだと感じられたらいいと思っています。

髙橋)読者へのメッセージをお願いします

ロマン

私は読書に未来があると考えています。SF小説をはじめ、愛や幸せについての本を読んでほしいです。スマホで動画やSNSをたくさん見ることが多い今、本を読んで、自分で考えることが大切だと感じています。

アンナ

皆さんが、私たち夫婦に興味を持ってくださったことに感謝しています。身近な人を愛して、幸せに生きてほしいです。

インタビューを終えて

私も親戚の多くがウクライナに住んでおり、連絡を取り合っています。しかし、ウクライナ侵攻が起こった時の彼らの心情を聞いたことがなかったため、今回、非常に貴重なお話を聞くことができました。日本での生活に感謝し、今後は平和とは何か、そして平和のために、未来のために自分には何ができるのかを考えたいと思いました。

 

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8月8日からめぐろTVで配信予定!
この特集インタビューは、区公式YouTubeチャンネル「めぐろTV」でもご覧になれます。

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