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目黒区役所の食堂が学び場に。地域の大人に教わる「学集会」の14年
ある火曜日の午後6時。目黒区総合庁舎1階にある「区役所レストラン」に、バックパックを背負った子どもたちが集まってきます。
ランチタイムの賑わいから一転、落ち着きを取り戻したレストランの夜の顔は「学集会」。経済的な事情で十分な学習機会を得られない中学生や高校生が、地域の大人たちに勉強を教わる場所です。


昼は区民に親しまれるレストラン。火曜と水曜の夜は倉庫から参考書が運び込まれ、「学集会」の会場になる
延べ1万8000人が参加
「学集会」は、目黒区が認定NPO法人「KIDSDOOR(キッズドア)」に委託して平成25(2013)年度から実施しています。
毎週火曜日と水曜日の午後6時から開催。令和8(2026)年3月末までの14年間で、開催回数は1162回、参加者は延べ1万7935人。ここで学んで高校に進学した子、大学受験に挑戦した子など、多くの子どもたちが巣立っていきました。
「生活することが大変な家庭の子は学習意欲が低いと思われがちですが、そんなことはなく、学びたい想いがあっても機会を得られないのです。これまで学集会に参加した子どもたちは、自ら学び、成長し、自立できる力があることを見せてくれました」
キッズドア理事長の渡辺由美子さんは、14年にわたる活動を振り返ります。

渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)認定NPO法人キッズドア理事長

井上晋二郎(いのうえ・しんじろう)認定NPO法人キッズドアディレクター/「学集会」マネージャー

「学集会」のはじまりは、新宿区内で実施していたキッズドアの学習支援の取り組みを知った目黒区職員が、目黒区でも実施してほしいと依頼したことでした。当初は適切な場所が見つからず、区役所レストランを利用。そのアットホームさから多くの子どもが通い続けることとなり、今も同じ場所で続いています。
見えにくい「学習格差」
目黒区は、区立小学校から私立中学や中高一貫校への進学率が約4割で、都内でも進学実績の高い区として知られています。その一方で、経済的な理由や家庭の事情で進学を躊躇する子や、受験したいと親に言い出しにくい子もいます。
こうした「学習格差」は、本人の努力ではどうにもならない学力の差や進路につながる可能性があり、「貧困の連鎖」を生み出す要因の一つでもあります。
福祉総合課の橋川久美子課長と、生活福祉課の小見哲一課長はこう話します。
「自宅では勉強しづらい状況の子どももいるため、学習習慣を身につけることや、生活リズムを改善することも、学集会の目的の一つです。さまざまな大人と接することで、学ぶだけでなく、人と信頼関係を築いたり将来に希望を持てたりする場にもなっています」
見守るのは地域の大人たち
キッズドアは全国で学習支援を実施していますが、目黒区はボランティアで参加する学習支援員が多いことが特徴だそう。これまで関わったスタッフは延べ1万1644人と、ほぼマンツーマンの支援体制が続いています。
「地域の大人が地域の子どもの成長を温かく見守る様子は「プチ親戚」のようです」と渡辺さんは話します。

この日も生徒1人に学習支援員が1人つき、それぞれの学校の宿題を進めながら、丁寧に質問に答えていました。
「いつも間違える問題があるんだけど、教えてもらえますか?」
「この解き方でも答えは出るけど、先に通分をしたほうが計算ミスをしにくくなるよ」
賞品がもらえるスタンプラリーや、講演や遠足のようなイベントなど、子どもたちのモチベーションを上げる仕掛けも工夫されています。

参加してスタンプを集めると、付箋などの賞品がもらえる。学習習慣を定着させるための工夫
この日、参加していた中学3年の女子生徒は、姉の勧めで中学1年の夏に学集会に通い始めました。「英検の対策をしてもらえ、中学2年で準2級に合格しました。イベントに参加して美術館に行けたのも楽しかったです」と話します。
高校2年の男子生徒は、中学3年で成績が伸び悩んでいたときに、母親から参加を勧められました。「家計の事情で塾に行けなかったので、学集会に来ていなかったら、高校を受験する決断はできなかったと思います」。面接対策のおかげで、推薦で都立高校に合格。入学後も「ここでなら勉強する意欲が湧くから」と学集会に通い続けています。

家族の支援につながる
進学意欲のある子どもには、区の「次世代育成支援員」が個別に相談に乗り、学校選びや奨学金の申請をサポートします。また、キッズドアが主催する「キッズドア学園SBCメディカルコース」に進み、看護師になる夢を追いかけている高校生もいます。
渡辺さんは「支援を必要とする家庭に直接つながることができるのが、行政と連携する意義です」と話します。
「子どもが学集会に来てくれたことがきっかけで、孤立しがちな保護者にアプローチできることもあります。コロナ禍では食品や学用品などの物資を支援しました」

さまざまな事情で通い続けることが難しい子どももいますが、進学や就職、アルバイトなどで忙しくなったという、うれしい「卒業」の報告も寄せられます。学集会の参加者が、卒業後にボランティアやアルバイトの支援員として戻ってくることもあります。
「ここに来なくなっても、新しい居場所を見つけられたのであれば喜ばしいこと。いつ戻ってきても温かく迎え入れる大人が待っている場所として、これからも長く続けていきたいです」と、渡辺さんは話します。

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にしやまあきこ 目黒区で子育て歴20年。大切な人の暮らしを豊かにするために働きたくて、民間公募で令和8年4月に入庁しました。新聞や週刊誌の記者、ウェブメディア編集長の経験から、取材がライフワーク。MEGURO+では、地域の課題を解決するために区の事業に関わってくださるかたたちの熱い想いを伝えます。記事の感想やご意見をお待ちしています。
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