めぐろ区報令和7年11月1日号編集後記「デフリンピック東京2025 Let’s GO to デフリンピック」

令和7年11月15日から26日に、「東京2025デフリンピック」が開催されます。
今号では、デフリンピックと、目黒区在住のデフリンピアンについての特集をお届けしました。

デフリンピックとは

デフリンピックは、4年に1回の頻度で開催されている、聴覚障害者のための国際スポーツ大会です。大会名は「ろう者（Deaf）と オリンピック（Olympics）」の造語で、「ろう者のオリンピック」という意味です。

障害者のためのオリンピックとしては、パラリンピックがよく知られていますが、デフリンピックという言葉は聞きなじみがないかたも多いかもしれません。デフリンピックの初開催は1924年で、100年以上の歴史を持つ大会ですが、日本で開催されるのは今回が初めてとなります。
身体障害、視覚障害、知的障害を持つ選手が参加するパラリンピックと異なり、デフリンピックは聴覚障害を持つ選手（補聴器などを外した状態で聞こえる一番小さな音が55デシベルを超えており、各国の「ろう者スポーツ協会」に登録されている選手で、記録・出場条件を満たしている人）のみが出場できます。
また、デフリンピックはろう者の公平な競技環境を実現するため、競技中の補聴器などの使用を禁止するなどの特別な配慮がされています。
もちろん競技でも情報保障がなされており、スタートの合図が音ではなくランプで伝えられたり、審判はホイッスルではなくハンドサインで合図を出したりと、さまざまな工夫がされています。

さて、この特集では、区内在住のデフリンピアン・児玉健さんにインタビューを行いました。
紙面でも紹介していますが、児玉選手は先天性感音性難聴で、生まれつき耳が聞こえにくかったそうです。ただ、学生時代は補聴器を使用することである程度の日常会話は可能だったそう。その後、社会人になってだんだんと耳が聞こえなくなり、5年ほど前に手話を覚えたと教えていただきました。
驚いたことに、児玉選手がオリエンテーリングを始めたのはたった1年ほど前。もともとマラソンやトレイルランニングを趣味にされていたそうですが、デフオリエンテーリングの説明会に参加されたことをきっかけに競技を始められたとのことでした。

児玉さんは、現在飲料メーカーでデータエンジニアとして勤務しながら、競技に取り組んでいます。勤務先であるサントリーホールディングス株式会社のウェブサイトでもインタビューが掲載されていますので、めぐろ区報のインタビューとあわせて、ぜひご覧ください。

東京2025デフリンピック1か月前！ 走力と頭脳を組み合わせた総力戦、オリエンテーリングに懸ける思いに迫る（ サントリーホールディングス株式会社）

オリエンテーリングって、何？

ところで、「オリエンテーリング」が一体どういう競技なのか、皆さんご存じでしょうか？
オリエンテーリングは、地図とコンパスを手に山野を走るスポーツです。山野といっても、場所は広い公園や山の中などさまざま。競技専用の地図には、高低差などの地形や特徴となる障害物などが記載されています。
その地図とコンパスを使って、エリア内に設置されたコントロール（指定された通過地点）を順序通りに通過し、ゴールまでの速さを競うスポーツです。
ちなみに、この競技専用の地図もオリエンテーリングクラブや団体が、テレイン（競技となるフィールドのこと）ごとに制作しています。等高線や建物などが詳細に記載されている地図を見るだけでも、なんだかワクワクします！

オリエンテーリングは、オリンピックやパラリンピックでは採用されていませんが、日本での競技人口は約2,200人と言われています。
オリエンテーリングの面白いところは、「ただ地図を読むのが早い」だけや、「ただ足が速い」だけでは勝てないところ。地図から最適なルートを読む判断力と、体力、走力の全てが求められ、競技中はそのバランスが非常に大切です。速く走りすぎると地図を読む判断力が落ちるし、正確に地図を読むためにゆっくり走ると、早くゴールできない……。スピードを保ちながらも、正しく地図を読み、より効率的なルートを見つけることが勝利への鍵となります。今回、インタビューと合わせて、児玉選手が所属されている入間市OLC（オリエンテーリングクラブ）にも、競技の見学へとお伺いさせていただきました。
実際のオリエンテーリング競技を見学させていただき、競技への解像度がぐんと上がりました。
一見よくある公園が競技フィールドに代わると、芝生にある木や切り株、植木などが特徴物や障害物へと変化します。公園内に置かれたコントロールを探し、ハイスピードで駆けていく様は、運動音痴な私も思わずやってみたい！と思うほどでした。

スタート前の様子。スタート時間を表示する時計には、スタートを知らせるランプが備え付けられています。

地図とコンパスを手に疾走する児玉選手。30個以上のコントロールを、地図を手掛かりに順番に通過します。通過の順番を間違えてしまうと失格となってしまうため、慎重にルートを考えながらも、スピードを維持する必要があります。まさに頭脳のスポーツ！

コントロールには、赤（オレンジ）と白に塗り分けられたコントロールフラッグと、通過時刻記録用のコントロールユニット（フラッグの上部に備えつけられている機器）がセットされています。 選手は、ICチップが埋め込まれたSIカードと呼ばれる小指ほどの小さな機器を持って走り、これをコントロールユニットにかざすと通過時刻が瞬時に記録されます。

オリエンテーリングは、日比谷公園・日比谷エリアと伊豆大島（裏砂漠）で競技が実施されます。都市にありながらも自然あふれる日比谷公園と、裏砂漠と呼ばれる広陵な大地が広がる離島・伊豆大島。一体どのような戦いが繰り広げられるのか、とても楽しみです。いずれもYouTubeでの配信が予定されていますので、ぜひご覧いただければと思います。

種類	日時	場所
スーパースプリントリレー	11月16日（日曜日）正午から	日比谷公園・日比谷エリア
スプリントディスタンス	11月15日（土曜日）8時から	日比谷公園・日比谷エリア
スプリントリレー	11月16日（日曜日）8時から	日比谷公園・日比谷エリア
ミドルディスタンス	11月20日（木曜日）10時から	伊豆大島（裏砂漠）
ロングディスタンス	11月21日（金曜日）9時から	伊豆大島（裏砂漠）
リレー	11月23日（祝日）10時から	伊豆大島（裏砂漠）

注記：開場はいずれも開始1時間前。児玉選手は、スプリングディスタンス・スプリントリレー・ロングディスタンス・リレーに出場します。

 

区内でも競技が開催されます

駒沢オリンピック公園総合運動場では、陸上競技・ハンドボール、バレーボールの競技が開催されます。オリエンテーリングと同様に、スタートランプやハンドジェスチャーなどの方法で審判の合図やスタートの合図が送られます。
いずれの競技も事前申し込み不要・無料で観戦できます。ぜひ、会場へ足を運んでみてください。

競技	日時	会場（駒沢オリンピック公園総合運動場）
陸上（ハンマー投げ・マラソンを除く）	11月17日（月曜日）から25日（火曜日） 注記：競技によって時間が異なります	陸上競技場
ハンドボール	11月16日（日曜日）・17日（月曜日）・19日（水曜日）・21日（金曜日）・23日（祝日）・25日（火曜日）10時から	屋内球技場
バレーボール	11月16日（日曜日）から20日（木曜日）・22日（土曜日）から25日（火曜日）10時から	体育館

東京2025デフリンピック大会ポータルサイト

障害者に対する理解促進と共生社会の実現に向けて

今回、日本で初めてデフリンピックが開催されることで、多くの耳がきこえない人・きこえにくい人が東京に訪れます。
今年4月には目黒区手話言語条例が施行され、区では、手話に対する理解の促進や普及啓発を行っています。
聴覚障害のあるかたとコミュニケーションを取る方法について、児玉選手は「例えばマスクを外して話しかけてもらえたり、ゆっくり話しかけてもらえたり、スマートフォンに入力した文字を見せてもらえたりすると、スムーズにコミュニケーションが取れるし、うれしく感じる」とお話しされていました。
デフリンピックをきっかけとして、デフスポーツに興味を持ち、聴覚障害への理解を深めてもらえるとうれしいです。
そして、「耳がきこえない人・きこえにくい人」と「耳がきこえる人」の距離が、さらに縮まれば良いなと思います。

広報広聴課：ろーれる