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特集
パラアスリート 吉越奏詞選手
東京2020・パリ2024パラリンピックと2大会連続でパラ馬術に出場した吉越奏詞選手。脳性まひにより障害がある吉越選手が、どのように馬と出会い、パラリンピック出場という大きな夢を実現したのかを紹介します。
お問い合わせ:スポーツ振興課スポーツ事業係(電話:03-5722-9695、ファクス:03-5722-9754)
プロフィール
パラ馬術をご存じですか?馬術はオリンピック・パラリンピックで、唯一動物と一緒に競技をする種目。馬場の中で、常歩(なみあし)・速歩(はやあし)・駈歩(かけあし)の3歩法で図形を描いたり、ステップを踏んだりして、正確さや美しさ、姿勢などを競う。採点対象は選手ではなく、馬のパフォーマンスを最大5人の審判員が各10点満点で評価し、順位を決める。 |
吉越選手ヒストリー
平成12年8月 目黒区で誕生
重度の脳性まひで生まれ、将来歩行は難しいかもしれないと医師から告げられる。
1歳頃 初めて馬に乗る
碑文谷公園のポニー教室に通う兄の迎えについて行った際、馬に興味を示す。その様子を見た職員から「小さくても、障害があっても乗れますよ」と声をかけられ、引き馬で乗馬を初体験。
馬に乗せてもらったら本当に喜んで。私もとてもうれしかったですね
2歳頃 ポニー療育で馬と触れ合う
すくすくのびのび園に入園し、週1回のポニー療育で馬との触れ合いが始まる。
海外の試合に行って、小さい子どもが馬に乗れる施設があると言うと驚かれます
小学生 ポニー教室に週6日通う
碑小学校に入学。碑文谷公園のポニー教室に参加し、放課後はすぐに公園へ。休業日以外はほぼ毎日馬と過ごす。
ゲームよりもテーマパークよりも、馬が好きでした
中学2年生 パラリンピック出場を決意
第七中学校に入学後も、ポニー教室を続ける。中学2年生の時、オリンピック・パラリンピックの東京開催が決定したニュースを見た瞬間、出場を決意。本格的にパラ馬術を始める。
朝起きてきたと思ったら、いきなり「パラリンピックに出るから」と言うので本当に驚きました
高校生 学業と練習に明け暮れる
日の出学園高校(現・目黒日本大学高等学校)スポーツコースに入学し、週末は所属する乗馬クラブで練習。高校3年生で世界馬術選手権6位入賞。その後も国内外の大会に出場し、上位入賞を果たす。
大学生 コロナ禍で出場を目指す
日本体育大学に進学。東京2020パラリンピックを目前に、新型コロナウイルス感染症が世界中で拡大。大学にも大会にも行けない時期が続く中、唯一エントリーできた海外の大会でパラリンピック出場権を獲得。
講義に出られないことも多かったので、友人にノートやプリントを見せてもらって、勉強も頑張りました
21歳 東京2020パラリンピックに初出場
厳しい行動制限を経て、馬事公苑で行われたパラリンピックに出場。無観客の中、パートナー馬「ハッシュタグ」と挑んだ結果、10位に。
23歳 アスリート採用で就職
練習と海外を含めた大会出場を続けていくため、アスリート社員として株式会社小泉に就職。
24歳 パリ2024パラリンピックに出場
2024年6月、日本代表として2度目のパラリンピック出場が決定。会場となったベルサイユ宮殿で、パートナー馬「ジャビーロ」と共に、9位の結果を収める。
ジャビーロに乗って見たベルサイユ宮殿は壮大で、圧倒的な迫力でした
ロサンゼルス2028パラリンピックは28歳。3度目の出場を目指す
吉越選手の幼少期を知るお二人から当時のお話を聞きました
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ポニーに乗れたことが奏詞くんとお母さんの自信につながったと思います |
当園では、馬に乗ることで体幹を鍛えるだけでなく、馬と触れ合うことによる情操教育も期待できることから、ポニーによる療育も行っています。
奏詞くんが2歳の頃、お母さんからポニー療育を受けさせたいと相談がありました。しかし、当時は4歳以上が対象でした。一度はお断りしたのですが、お母さんは奏詞くんのために本当に必死で、私たちも応えたいという気持ちから、1・2歳クラスもポニー療育を始めることにしました。
馬に乗れるようになると自信がついて、職員やお友達とも上手に関われるようになり、他の運動プログラムにも積極的に参加するようになりました。お母さんも自信が持てるようになったんじゃないかと思います。
ここでの馬との触れ合いが、パラリンピック出場につながったというのは本当に素晴らしいですし、私も励みになります。奏詞くんの活躍を、すくすくのびのび園のみんなで応援しています。
目黒区児童発達支援センターすくすくのびのび園発達の遅れまたは遅れが予想される1歳から就学前までの子どもを対象に、集団の場での早期療育で心身の発達を促しながら、日常生活の能力を開発し、予測される障害を可能な限り軽減させるための療育を実施しています。また、発達に関する相談事業ひまわりも行っています。 場所:目黒区中央町二丁目23番24号 |
小さい頃から馬と一緒にいる時の吉越くんは凛々しかった |
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最初の出会いは、吉越くんがすくすくのびのび園でポニー教室の団体利用に通っていた頃で、甘えん坊だなって印象でした。でも、小学生になり個人のポニー教室に通うようになってからは、自分より大きな馬に飛び乗る時などでも、できないけど、まずやってみようという一生懸命な姿が印象に残っています。パラリンピックを目指すって、本人だけでなく周りのフォローなども、とても大変だと思うのですが、吉越くんはいろいろなかたにとても感謝しているなと感じていました。そんな吉越くんだからこそ、パラリンピック出場もかなったんだと思います。
子どもの可能性やチャンスはどこにあるのか分からない。そのチャンスを大人がつぶしてしまわないように、この子は特別だとかではなく、どんな子でも公平に接することが大切なんだということを、活躍する吉越くんを見て、改めて思っています。
碑文谷公園ポニー教室
小・中学生を対象に、乗馬や馬の世話などを通して思いやりの気持ちを育み、集団活動での協調性などを養うことを目的に実施しています。3カ月の定期登録制の個人参加のほか、団体(中学生以下で5人以上)利用や、気軽に乗馬体験できる引き馬も実施しています。
場所:目黒区碑文谷六丁目9番11号 碑文谷公園内
お問い合わせ:電話:03-3714-1548(ファクス番号共通)
吉越選手インタビュー
馬に乗っている時、僕は自由なんです
吉越選手にとって、馬との出会いはどのようなものですか 小学生の頃は、自分は何もできない、みんなの迷惑になっているんじゃないかと悩むこともありました。でも、馬に乗っていると自然に笑顔になって、他の子と同じように乗れるとうれしくてもっと乗りたくなって、そうしていくうちにどんどん自信がついてきたんです。馬が僕を支えてくれたと思っています。 |
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パラ馬術の魅力はどのようなところですか パラ馬術は、フィギュアスケートのような採点競技です。騎手ではなく、馬の動きを審査員が採点します。そして、パラ馬術の特徴は、障害に合わせてさまざまな道具を使って演技するところだと思います。僕の場合は足にゴムバンドを巻いて固定したり、右手に装具をつけたりします。オリンピックなどとは違った姿で競技するところは大きな魅力です。 |
2度のパラリンピック出場を振り返って、いかがでしたか 東京大会はコロナ禍での開催でした。出場資格を取るためには馬術選手権大会で成績を出さなくてはいけないのですが、エントリーできる大会自体がなくて大変でした。 |
努力は夢への一歩になることを子どもたちに伝えたい
今後の夢は何ですか 歩けなかった僕が馬と出会って、馬が僕の分まで一緒に歩いて、一緒に走ってくれた時、とてもうれしかった記憶が今も残っています。馬を通して、世界中に友達もできました。馬って、本当に親しみや安心感を与えてくれるんです。だから、老若男女を問わず、多くのかたに馬の素晴らしさをもっと知ってもらいたいし、馬に親しむ機会を増やしたいと思っています。そして、僕自身は、パラリンピックに10回以上連続出場したいと思っています。馬術は70歳を超えてもできるスポーツですし、僕と同じ障害のクラスで68歳のメダリストもいます。連続出場でギネス記録にも挑戦したいですね。 |
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区民の皆さん、そして子どもたちへのメッセージをお願いします パラリンピックの応援をありがとうございました。僕は今も目黒区で暮らしていて、目黒の皆さんに支えられて、今があると思っています。子どもたちには、たとえ困難なことがあっても、苦労した分だけきっとその努力は夢につながると信じて、頑張ってくださいと伝えたいです。これからも応援をよろしくお願いします。 |
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