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歴史を訪ねて 耕地整理組合
「歴史を訪ねて」は、「月刊めぐろ」昭和54年6月号から昭和60年3月号の掲載記事を再構成し編集したものです。
耕地整理組合
「住みよい街づくり」が求められることは今も昔も変わりがない。50年以上前、東京市近郊の農村ではすでに街づくりの基礎が進められていた。曲がりくねったあぜ道を広げて、条理を整え水道を引く。その都市化を進めたのは、行政ではなく、地主たちが中心になって設立した耕地整理組合であった。
押し寄せる都市化の波
明治42年に制定された耕地整理法の適用を受けて、大正初期から昭和6、7年にかけてのおよそ20年間、各地で耕地整理が実施された。この時期は大正8年に都市計画法が制定されるなど、ちょうど東京市が近代都市へ生まれ変わる時期と重なり、東京市周辺では耕地整理の名の下に、実質的には区画整理や道路整備が進められた。ことに大正12年の関東大震災を機に、東京市の周辺地に居を移す人が相次いだため、農地は虫食いのように宅地に変わり、農村の秩序は少しずつ崩れていった。
東京から押し寄せる時代の波に対して、目黒の人びとはこれに適応する準備を始めた。大正4年設立の大崎町目黒村耕地整理組合をはじめとして、昭和の初めまでに13の組合が設立認可を受けた。これらの組合は、農村から都市への脱皮を使命として生まれたのである。宅地の需要はあるのだから、農地を整備して宅地化すれば地価は上昇する。耕地整理組合の設立に走り回ったのは、時代の流れを察知した大地主たちであった。
組合名 | 認可年月日 | 責任者 |
---|---|---|
大崎町目黒村耕地整理組合 | 大正4年3月 | |
田園都市耕地整理組合 | 大正10年5月26日 | 田園都市株式会社 |
碑文谷耕地整理組合 | 大正12年12月18日 | 宮野菊蔵 |
小川・柳町土地区画整理組合 | 大正13年5月 | 朝倉虎次郎 |
衾東部耕地整理組合 | 大正14年12月25日 | 岡田衛 |
衾西部耕地整理組合 | 大正15年1月7日 | 栗山久次郎 |
別所土地区画整理組合 | 昭和4年3月1日 | 朝倉虎次郎 |
碑文谷第二耕地整理組合 | 昭和4年4月5日 | 角田光五郎 |
衾第一耕地整理組合 | 昭和6年5月2日 | 小杉重治 |
衾第二耕地整理組合 | 昭和6年10月10日 | 小杉喜四郎 |
衾第三耕地整理組合 | 昭和6年10月10日 | 青木吉三 |
石川端共同整理組合 | 昭和7年5月10日 | 鈴木伊三郎 |
目黒町第一土地区画整理組合 | 昭和8年5月24日 | 島崎七郎 |
推進派と反対派の対立
もちろん反対する人びともいた。耕地整理によって地価は上がるだろうが、わずかな耕地しか持たない農家にすれば、そのための費用が大変だし、整理で道路を広げれば広くない土地がますます削られる。事実、昭和7年の統計によると、耕地から転換した土地の1割は道路になっている。そういう実際的なことのほかに、長年、土とともに生きてきた農民には、農民特有の土地への愛着があった。
耕地整理地区図
「土地発展のために、お互いがこうしなければ生きられない、時勢がこうなったのだからといくら説いても「そんな必要はない。われわれ百姓は土に生まれて土に死んでいくんだ」といって、それはもう土地は離しません」(「目黒区史」)
このような耕地整理推進派・反対派の対立は各地で起きた。例えば、玉川村村長豊田正治が耕地整理の計画を農民に提示したときも、その計画が全村に及び、広い道路や公園の建設を予定した大規模なものだったこともあって、村中が賛成派と反対派に分かれ、刃傷ざたが起きたほどだという。
農村からの脱皮
村中を揺るがした玉川村全円耕地整理事業は、いち早く整理を終えた尾山や奥沢西などの地域で土地売却を開始して耕地整理に利のあることが証明され、また農業経営への不安が慕ってきたこともあって、事業目標の大半を達成した。
目黒でも反対派の声はだんだん小さくなり、結果として耕地整理事業はおおかたの成功をみた。その背景には、地価の上昇によって土地を貸したり売ったりするほうが、汗水たらして畑を耕すよりも収入がよくなったという事情もあったからである。宅地化をもくろんで耕地を放置する「不作付地」が、昭和7年には目黒全耕地の1割程度、同12年には2割を超えた。このような現象は都市が拡大するときに周辺部に見られる現象である。
整理を終えた土地は、耕地として生産を上げる間もなく、目黒川流域は工場用地に、洗足・柿の木坂・八雲などは閑静な住宅地に姿を変えた。これらの住宅街は、現在、都内でも美しい住宅街として知られるが、それは昭和の初めの整理事業に負うところが大きい。
ただ旧目黒町では、地主の対立が政党間の問題にまで発展して、事業が計画倒れに終わったところがあって、今でも曲がりくねった道が残されている。
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